しかし従来の「強制収容所モノ」あるいは「ホロコーストもの」作品にありがちな湿っぽさは極端に誇張されず、ある意味エンタテインメント性を高めるための実在しないキャラクターや、主要な登場人物たちの背景にも若干の演出が加えられているという。それはむしろ良い方向に作用しており、苛酷な状況下でも気骨ある生き方をしよう、生き延びて勝とう、ともがき、あがき、「誇りと命を賭けた激闘」を繰り広げた男たちのドラマを時には凄絶に、時にはペーソスを交え、時には少しユーモラスに描いている。娯楽作品としても一級品と言え、それは私も大好きな名作『戦場に架ける橋』を思い出させる。
主役の「偽造屋サリー」を演じるカール・マルコヴィクスが素晴らしく巧い。他人を一切信用しない一匹狼の悪党が、収容所の贋札チームでは仲間の命を繋ぎ止める人間味溢れるリーダーに成長してゆく。かなり金にセコく、自分の利益しか考えず、同胞の弱みにすら付け込む小悪党だったのが、“ナチスに協力などせず、抵抗して潔く死のう!”という一派と“どんな汚い事をやっても生きていたい”という一派の板挟みになるという皮肉さ。
それまで省みる事もなかった人間の尊厳や国家、家族の絆を思って身を震わす演技には、きっと皆さんも深い感動を覚えるだろう。
近年の歴史ミリタリー作品では出色の出来だったといえる『ヒトラー/最後の12日間』を製作したマグノリア社の最新作だとか。かつての悲惨な、そして今後永遠に自国の歴史を語る上でのダークゾーンになり続けるだろう題材なのに、こんな見事な、人生の教訓を多く含んだ作品に仕上げるというのは、ドイツ映画界は本当に偉大だと思う。
まさにWEBコマンド読者必見の一作。
1967年12月、東京都生まれ
銃器&映画ライター 銃器評論家 射撃選手 映画評論家
年に3〜4回は海外の試合や訓練に参加し、実銃射撃の経験
を積み重ねている[現役のs射撃手」でもある。銃に関してはカタログデータや資料
からの引用、列記のみによる頭でっかちな知ったかぶり原稿が許せず、“自分の肉眼
と身体で知りえた情報を書く!”が信条。