そんなわけで専門誌には短い文章ではあったものの何となく書き心地が悪く、また少々不本意な原稿を送らざるを得なかった。しかしまあ、何といっても「ジェリー・ブラッカイマー印」である。過去に彼が製作を手掛けた作品『ザ・ロック』、『アルマゲドン』、そして前述の『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ。どの作品も賑やかでそこそこ満足は出来る話題作ばかりなのでまあ大丈夫だろう、という甘えがあったのも確かである。逆を言えば、驚くほど面白くはないし、中身もあまりない、という事で、まあ、及第点ではあるけれど毒にも薬にもならない、良い意味でも悪い意味でも「娯楽映画」で割り切れる作品群のひとつだろう、程度に考えていたのは事実である。
そんなわけで原稿も既に書き終えた後だったし、とても楽しみではあったけれどもさりとて重厚なテーマのドッシリした作品を「迎え撃つ」時のような心の準備も特にせぬまま、 非常に気軽な気分で試写に臨んでみたら……あれあれ? 意外な拾い物じゃないか! 面白いじゃないか! と、とても得した気分になれた本作であった。
リンカーン暗殺といえば「小型拳銃デリンジャー」の知名度を一気に上げた事件。銃が使われた犯罪として間違いなく世界史のワースト5、いや、ワースト3内に入る大事件だろう。しかしその背後に暗殺者の日記とか、実行犯ブースを取り巻いていた政治的な背景、さらには南軍の敗残兵たちがなおも政府奪回の機会を狙って暗躍していた、という実際の歴史的知識やウンチクを織り交ぜつつドラマを盛り上げていく手法。よくあるやり方だとは思うのだが、「銃器と戦いの歴史」ど真ん中の、筆者が興味のある分野だけにグイグイと引き込まれてしまった。最近では『ダヴィンチ・コード』という作品もあったが、長文の原作を読んでしまうと映画はいかにも「はしょって」いて物足りなかったものだが、本作の場合は映画オリジナルの脚本なので何かと比較してガッカリする必要もない。