見慣れた大都会の風景だけに、誰の話し声も聞こえないその様子は孤独そのもの。それが逆に何でもない日常生活のシーン一つ一つに異様な緊張感、ある種のテンションを与え、その重圧感は想像以上だった。
原作はSF界の巨匠、リチャード・マシスンが1954年に発表した一大傑作『地球最後の男』(※現在は『アイ・アム・レジェンド』ハヤカワ文庫刊として再版)。その大胆なアイデアと設定はその後の多くのSF作品に受け継がれ、多くの派生作品を生んだほか、1964年には『地球最後の男』(ヴィンセント・プライス主演)、1971年には『地球最後の男 オメガマン』(チャールトン・ヘストン主演)として映画化もされ、その時代に社会が抱えていた不安や不満といった要素をうまく盛り込み、高い評価を受けている。
今回の作品でも「倫理なきバイオテクノロジーの乱用」や、現在もHIVや新型インフルエンザ等で人々の恐怖の対象となっている「ウィルス蔓延の恐怖」、さらには人と人とのコミュニケーションの不在、孤独、暴力衝動といった現代的なテーマを象徴的に描き、時々ハッ! とさせられる場面が多かった。
主演はあらゆるジャンルで次々にヒット作を連発し、『幸せのちから』ではアカデミー賞主演男優賞にもノミネートされたウィル・スミス。自身の出世作となった『インデペンデンス・デイ』よりも状況ははるかに絶望的で、『幸せのちから』よりも希望ははるかに遠い、地上にたった一人の「最後の男」。上映時間の殆どがウィル・スミスの一人芝居といって良く、作品全編に全精力を注ぎ込んでいる様子は充分に伝わってきた。
“誰も見たことのない全く新しい世界の創出”という点で、キアヌ・リーブスが悪魔ハンターを演じた怪作『コンスタンティン』でもその才能を見せ付けたのフランシス・ローレンス監督は、今回も圧倒的なビジュアルで観客を引っ張っている。無人の都市の光景以外にも、ネビルの研究室や、感染者が変化した凶暴な「ダーク・シーカーズ」が徘徊する昼なお暗い廃ビル等、サスペンスとアクションを盛り上げる工夫はサスガ、と思ってしまった。