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ビアンキカップへの道’89

ビアンキ カップへの道 89 No.07

ビアンキカップの詳細・序章はブログで公開しています。

【試練】

ふり返って

2日目は朝から雲ゆきが怪しかった。
天候に救われ、初日のプラクティコゥを実力以上の成績で撃てたためか、重いねずみ色の雲が必要以上に気になる。

初日を振り返ると、プラクティコゥを失点2で抑えられたのは運だった。練習中の成績からみても、それは明らかだ。
確かに、ミッキーのレンジで行なった特訓では、後半は失点をひとケタに抑えていた。パワーさんのところで3度プラクティコゥのコースを撃ち、失点2を2回と、クリーン(満点)を1回という記録は残していた。
しかし、それはあくまでも練習だ。練習と本番とはまったくの別物で、実戦経験の少ないシューターにとって、練習中の成績は参考にならない。
それにしても‥‥、たった3カ月半の練習で、素人がそこまで撃てるようになるものなのか‥‥。
ここはやはりイチローさんに感謝する以外にない。

“あのな、ケン。日本人シューターが短期間でうまくなるのはな、コーチがいいからっていうわけじゃないんだよ。誰も彼も、真剣に取り組むからなんだよな”
イチローさんは、ぼくにそう言ったことがある。
もちろん、その意見は正しいが、それだけでは不可能だ。ビアンキカップに適したガンを考えだし、4つのステージを攻略するための正しい方法を伝授してくれるコーチは必要不可欠なのだ。
多くの読者からは反論を受けるかもしれないが、ぼくの目から見て、イチローさんにはシューティングの才能はない。まったくもって普通の人間だ。
それでも、世界のトップシューターたちの間で暴れまくっていられるのは、別の才能に溢れているからだ。
「別の才能」とは、「観察力」「分析力」「判断力」そして「想像力」が常人とは根本的に違うレベルにあり、「探究心」という名のエナジーを無限に持っているところだ。
ぼくがイチローさんを尊敬するのは、なにも、シューティングが巧いからではない。ガンに詳しいからでも、写真が上手いからでも、もちろんない。
「フツーの人でも自己を観つめ、ハンドル(自律)することができれば、必ず高められる」
ということを悟らせてくれた人物だからだ。
<王貞治にはホームランを打つ才能があったわけじゃない。「努力をする」という才能があったのだ>
そう評した人がいたが、それが事実なら、イチローさんは、シューティング界の王貞治ではないかと思う。

プラクティコゥは地味なステージだが、10、15、25、50ヤードの4ヶ所それぞれに落とし穴があり、シューターの、ハリの穴ほどのミスをお盆サイズに広げてしまう。
そのため、見た目はやさしそうでも撃ち始めると少しずつ「不安感」に蝕まれ、ミスがミスを呼び、未熟なテクニックの限界を曝け出すシューターが続出する。
だが、ぼくは少しも怖くなかった。
イチローさん仕込みのプローン テクニックがあったし、ガンも充分に信頼できたからだ。教わったとおりに撃つだけで、それだけで全てがうまくいく。
プラクティコゥは、そうやって乗り切った。
だが‥‥。
2日目に迎えるのはムービングターゲットだ。動く的の「ムーバー」なのだ。残念ながらムーバーには攻略法というものはない。イチローさんですら、さんざん苦汁を舐めさせられてきたステージだ。
ここは自分だけが頼り。イチローさんがデザインしたカップガンにもムーバー対策はなく、プローンのような強力なテクニックも何もない‥‥。
強敵を前に頼れるものがないと知ると、心は、ひとごみの中で母親を見失った子供のようにさみしく震えた。
カラ元気を出す力さえ失わせた。
 それは、多くのシューターたちの偽らざる心境なのだ。


運命は敵か味方か

朝から怪しかった空模様だが、不安は的中し、日本人シューターたちが試合会場へ到着するころには本格的に降り始めた。
ザアザアと大きな音を発てて地面に叩きつけられた雨は20〜30cmもハネ返り、そこ、ここに水たまりを作った。
それでいて、15分もすると太陽が気持ちよさそうに顔をのぞかせたかと思うと、いきなりの突風が吹いてみたりと、天気は大荒れに荒れた。
試合のスケジュールはあってないものとなり、シューター達をイラつかせる。
それというのも、試合出場の30分前に行なわれるシューターチェックに遅れると 「出場不可 」となるため、時間の流れ、試合の進行状態に気を使いすぎ、神経がもたないのだ。
必然、雨の中で撃たされるシューターも数多かった。
5月とはいえ、雨に濡れた身体は急速に体温が奪われ、指先は自分の意思どおりに動かない。
ヒーターをかけた車の中でさえ、お茶を飲もうとコップに伸ばした指先がプルプルと震えた。

そんな中、ぼくの目の前でイナバが撃ち始めた。
ムーバーのステージは2ヶ所あり、イナバとぼくのふたりだけが、ほかの日本人シューター達とは離れた別の場所で撃つことになった。先輩のヒロさんにいわせると、イナバとぼくが行ったところは「ビアンキカップの島流し」なのだそうで、確かにギャラリーもなく、しんみりとした空気の中で試合が進む。が、撃つならこっちの方が有利だ。
イナバのスタートはよかった。
10ヤードからの12発ではテニスボールほどの大きさのグルーピングを作ってみせる。初日の調子のよさを、そのまま2日目にも残しているようだ。
写真を撮るためにイナバの後ろ1メートルまで近づくと、空気が熱かった。ビリリッときた。
15ヤードまで退がり、シリンダーに6発の弾をこめホルスタに戻したとき、イナバがチラッとぼくをみた。
イナバの視線には満身の力がこもっていた。
<いけー、イナバ!>
ぼくは心の中で叫びながら見守った。
日本でエアガンを撃っていたときは、他のシューターを心から応援したことは一度もなかった。ガンバレといいながらも、どこかで失敗することを期待していた。
人の失敗を期待するとは、自信のなさ、弱さの証明なのだろうが、それは、ぼくにとって紛れもない事実なので、隠しても意味がない。
イナバは順調に撃っていった。
背筋がゾクっとするようなグルーピングではないにしろ、大きなミスもなくターゲットに穴を開けた。見ていて気持ちがいい。
が ―――― 、25ヤードでトラブルにみまわれた。
20ヤードで撃っているときから起こっていたのだが、風が強く、射撃中にターゲットが振られてしまったのだ。 シューターに対して真っ直ぐ正面を向く決まりのターゲットが、風に舞う凧のようになびいた。
試合は中断され、風がおさまるのを待った。
25ヤードでの1ストリング目(最初の3発)を撃ち直してもよいとレンジオフィシャルが言ったが、イナバは、その必要はないと断わった。
待つこともなく風は弱まり、試合は再開し、イナバは残りの9発を撃った。

ターゲットが集められ、採点が進むと、10ヤードで撃った12発の内の1発が不明だという。ワンホールと呼んでもよいほどのグルーピングを出しながら、何という判定。
“これでビアンキも終わったな”
ゆっくりと、力のないイナバの声が漏れた。


無意識の中で

ぼくはイナバに続いて撃つため、天気の回復はなかった。昨日、プラクティコゥを撃つときは50ヤードでもX(エックス)リングは明瞭に映ったというのに、きょうは、10ヤードの距離でも確認できない。
もともとムーバーではよいスコアーなど出せるはずもないが、きびしい条件だ。
<よし、こんなときこそ粘り強く撃つんだ!>
サイトピクチャーを確認したあと、6発の弾を込め、両手を肩のうえまで上げて右の壁を見つめる。
“シャーッ”
滑走音が聞こえたかと思うと、わずかに遅れてターゲットが現れ、目の前を横に向かって素早く走った。
X(エックス)リングの左端にダットを合せながら、トリガーを引くタイミングを探る。
<ここか、ここか、ここか‥‥>
走るターゲットの一点に無理やりダットを合せようとするあまり、トリガーを、思うように引けない。
ムーバーの落とし穴に片足をつっこんでしまったと気づいたときには遅かった。ターゲットは半分以上も走っている。残り時間は3秒も無い。
“チィーッ”
無造作に、いや、無神経にトリガーを引いた。
10ヤードでの最初の6連射。1発目を左上の5点に撃ち込んだ以外は、どこに弾が飛んだのか判らなかった。
次は左から右にターゲットが走る。
心臓の動きが早くなるのを感じながら、左側の壁を睨んだ。
再びターゲットは現れた。
なにも見えず、考えられず、ただ闇雲にトリガーを引いた。
6発がどこに飛んだのか、ターゲットに当たっているのか外れているのか、それすらも判らなかった。
アガッて手が震えているわけではない。どちらかといえば練習どおり撃てている。それにもかかわらず、ターゲットのどの辺を撃っているのかが判らないのだ。
プレッシャーには違いないが、少しも苦痛ではなかった。25ヤードまで同じ気持ちで撃てた。
採点は、29点ダウンの451点だった。練習での平均が失点22〜23なので、自分としては満足だ。
ただ、どこを狙っているのかも判らずに撃っていたこと、トリガーを引いたことに不安をおぼえた。
このあと直ぐにフォウリングプレイトを撃つのだ‥‥。
心と身体が、同時にこわばり始めた。

to be continued


戻ります。
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